トランスのエネルギーロス

電気の上手な使い方からの一部抜粋

ここでは、電力使用量が大きいために受電設備を設置して電気を利用している、全国 約70万軒にものぼる需要家の、見落としてはいけないトランス設計上の留意点と、省 エネルギー対策についてふれてみたい。なかでも、電気的負荷がかかっていない夜間や 休日などにトランスにかかっている無負荷損(鉄損)、負荷のかかっているときの負荷 損(銅損)、これらを併せて全損失というが、それらは、発電所の規模に換算すると、 100万kW級の発電所数基分にも相当する損失となっていることを、冒頭に明らかに しておきたい。
一般にトランスの効率は次式で表される。

この式で分母の鉄損と銅損の和をトランス の全損失といい、通常2%前後存在する。極端に古いトランスや極端に低負荷でのトラ ンス使用の場合には、この全損失が5%にも達するので要注意である。
この効率と負荷(出力)の間には、図19のように負荷が小さいと効率が極端に悪く なり、逆に負荷が増え100%を越えた時は、過負荷耐量型のトランスを使用していな いと、効率が低下するという関係がある。
図19


過大なトランスを抱えたままの電力使用は、名実ともにエネルギー使用上の無駄であ り、需要家側のエネルギー経費を削減するために是正を要するものである。特に近年の 実量制実施により、トランス設備としては200kWもあるが負荷レベルで30kWな どという極端な例が多々あり、こういった場合の全損失と保安管理費(メンテナンス 費)は莫大なエネルギーのロスといえる。このことを電力需要家・資源エネルギー庁・ 電力会社は共によく考えなければならない。快適で便利な電化生活の陰で、エネルギー の無駄がトランス受電で行われているとしたら、これは是正されるべきことではないだ ろうか。
ふつう電力の使用負荷が50kW以上の需要家(すなわち第1章で述べたアンペアの 契約になぞらえていえば、500アンペア契約位の規模のところ)は、電力会社から電 気の供給を受ける場合に、受電設備を持つことになる。しかし、経営者であれば特に気 をつけたいのは、建築設計側に任せきりにしないというスタンスである。
設備ができあがった後で、店舗であれ工場であれ、多くの人から思いの外、多大な電 気代を払うことになったという話をよく聞く。日本の電気料金は、使用量を節約しても 料金が減らない固定的な料金部分が、平均して全体の3から4分の1にも達している。
それが基本料金と呼ばれているものである。そして、この基本料金を決める基が受電設 備の大きさである。つまり、設計側に任せきりでいると、余裕を見るあまり実際に必要 なトランス容量の2、3倍の設計となっている例が非常に多い。工事代の水増しを意図 してそうしている場合もある。この結果、基本料金が高くなり、保安管理費が高くなり、 トランスの全損失が大きくなる。この間の事情は、拙著『電気料金に異議あり』(ダイ ヤモンド社1995年9月発行)に詳しく書かれている。
また、近年、通産省、電力業界が「ゴリ押し」してきた最大需要電力による電気料金 の決定方法への変更というシステム(実量制)が、トランス設備で過大な設備を抱えた 需要家の基本料金を減らすことがあっても(実際には供給約款取扱細則からいえば、ま だ高い1.4倍の基本料金を払っているのだが、需要家の99%はそのことを分かって いない)、高い保安管理費とトランスの全損失の問題を何も解決せず、かつ、不透明な 電気料金システムを温存することになった。ここであえて「不透明な」と表現した理由は、第6章第2節第6項に紹介した計量器自身の問題があるからである。
したがって、大口電力需要家(月々数万円~10万円以上の電気料金を支払っている ところ)は、供給側の話を聞くだけでなく、需要家の立場を代弁する第3者機関(たと えばNPO経営設備監査協会)に相談をしてみることをお勧めする。供給側だけの話を 頼りに受電設備を導入して電力契約をするのであれば、年間100万円くらいの無駄な 電気代(基本料金、保安管理費、トランスの全損失)を払う羽目になると断言しても間 違いはない。その理由は、電気料金のしくみをいい面でも悪い面でもよく熟知している のが電力会社であり、電気保安協会、電気工事会社は、立場上、電力会社のいうままの 傾向にあるからである。また、需要家側に管理され好きの傾向があることも問題である。
すなわち、電力会社に任せておけば、全ていいようにやってくれている筈だ、という固 定観念が存在する。賢い人は先入観を持たずに公平な立場から判断することである。事 実は意外なところに存在する。
ここでトランスの全損失の無駄となっている分だけを取り出して、国全体で計算して みよう。仮にトランス設置需要家の70万軒が平均して70kW分の過大設備とすれば、 これによるトランスの全損失を2%として、70kW×0.02×700、000=9 8万kW、トランスの全損失を4%とすればこの倍の損失となり、100万キロワット の原子力発電2基分にも相当する。この多大なロスが電力料金の実量制によって改善さ れず、しかも、大型発電所の設備投資増加ということもあって、電気料金の高値硬直性
に寄与しているという事実を考え合わせると、これはもはや個々の需要家の財布だけの 問題(個別の問題は次章第2節を参照)ではない。決して無視できる問題ではない筈な のだが、一般の人たちは電気に対する関心が薄いために、また、市民意識の未成熟とい う傾向と相まって、問題の所在すら理解できていないままになっている。利便性は求め るが、供給上の問題はあなたまかせという風潮があるのである。「もんじゅ」の破綻に よる税金一兆円の無駄使いと同様、ここにも無責任な実態が存在する。